潰瘍性大腸炎とクローン病の違いとは?症状・原因・治療法を解説
潰瘍性大腸炎とクローン病、どちらもあまり聞き慣れない病気かもしれません。しかし1990年代以降、患者数は急激に増え続けており、潰瘍性大腸炎は約20万人、クローン病は7万人に達しています。ともに炎症性腸疾患に分類され、共通点の多い疾患です。
そんな潰瘍性大腸炎とクローン病ですが、どのような病気なのでしょうか。
この記事では両疾患の違いと、症状・原因・治療法について、なるべく簡単な言葉にかみ砕いて解説しています。
病院で説明されたけどもう一度調べたい方、身近な人がかかって病気のことを知りたい方に向けた内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。
潰瘍性大腸炎とクローン病の違い
『潰瘍性大腸炎』と『クローン病』の大きな違いは、病変の発生場所です。
大腸の粘膜に病変ができるのが潰瘍性大腸炎で、口から肛門までの消化管全域に病変ができるのがクローン病になります。
どちらも似た性質をもっている疾患で、共通点は以下の5つです。
- 炎症性腸疾患に分類
- 若い世代の発症が多い傾向がある
- 消化管に慢性的な炎症を起こす
- 症状のある活動期と寛解期(症状がおさまっている期間)を繰り返す
- 原因がはっきりわかってなく、厚生労働省の難病指定を受けている
このように共通点が多い両疾患ですが、治療法が異なる部分があるため、正確な区別が必要になります。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は、大腸粘膜に炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍ができる病気です。
病変部位は原則、大腸だけですが、腸管以外にも関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症などの合併症が生じる場合があります。
潰瘍性大腸炎では粘血便や腹痛などの症状がある状態を「活動期」、症状が安定している状態を「寛解期」と呼びますが、この活動期と寛解期を繰り返すことがこの病気の特徴です。
したがって、治療により病状が安定しても再び悪化(再燃)することもありますので、再燃予防のために長期に薬を服用する必要があります。また、経過が長い症例では大腸癌発症のリスクが高まりますので定期的な内視鏡検査が必要です。
症状
主な症状は下痢、粘血便、腹痛などですが、ほかに発熱、倦怠感、体重減少、貧血などの症状がみられることもあります。
検査
潰瘍性大腸炎の診断を単独で行える検査はありません。
問診、診察に加え、血液検査、便検査、内視鏡検査などを行って診断します。
採血検査
炎症の指標としてCRP、貧血の指標としてヘモグロビン(Hb)、栄養状態の指標として血清総タンパク、アルブミンなどを測定し重症度を評価をします。また、投与中の薬剤の副作用を調べるためにも必要となります。
便検査
主にほかの病気(感染性腸炎など)によって下痢が起こっていないかを確認するために便の培養検査をします。最近では便カルプロテクチンと呼ばれる便中のタンパク量を測定することで大腸の炎症の程度もわかるようになりました。
大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡を入れて大腸の病変の有無、範囲などを調べる検査です。潰瘍性大腸炎の病変は原則、直腸から連続的に口側へ広がって行きますが、潰瘍性大腸炎の診断、病変範囲、潰瘍の程度を把握するために必ず大腸内視鏡検査を施行します。診断時だけでなく治療効果の判定や大腸癌の検診目的でも施行します。
治療
潰瘍性大腸炎は、原因が不明ですので完治できる内科治療法がまだないのが現状です。したがって、内科治療の目標は寛解期を長く維持してQOLの向上を目指すことになります。
潰瘍性大腸炎の治療には寛解導入療法と寛解維持療法の2つがあります。
寛解導入療法は炎症を速やかに抑えて安定した状態にする治療です。寛解維持療法は安定している寛解期を長期に継続させるための治療です。
寛解導入治療のみで使用する薬剤にはステロイド、免役抑制薬があります。寛解維持治療のみで使用する薬剤には免役調節薬があります。寛解導入、維持のどちらにでも使用できる二刀流の薬剤には5-ASA製剤、生物学的製剤、JAK阻害剤があります。内科治療で効果が認められない重症の場合、穿孔(腸に穴があくこと)、中毒性巨大結腸症(腸管が風船のように拡張してしまって機能していない状態)、大腸癌を合併した場合は手術が行われます。また、頻回に入退院を繰り返して通常の日常生活が送れない場合や再燃を繰り返してステロイドから離脱できず、QOLが著明に低下している場合も手術の適応となります。
潰瘍性大腸炎の手術は再燃予防のために原則、正常部分も含め大腸を全部摘出します。手術方法は小腸で便を溜める袋(回腸嚢)をつくり、これを肛門管とつなぎ合わせて肛門機能を温存する手術が主流です。一時的にはストマ(人工肛門)となりますが、現在では永久ストマになることはほとんどありません。
5-ASA(アミノサリチル酸薬)製薬
5-ASA製剤は潰瘍性大腸炎の基本薬で寛解導入と寛解維持の両方に用いられます。従来から用いられているサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)とサラゾピリンの副作用の原因となる成分を取り除き、有効成分が炎症部位で効率よく作用するように工夫された改良薬のメサラジン(ペンタサやアサコール、リアルダ)があります。
経口剤、坐剤、注腸剤があり、病変部位によって使い分けます。経口剤は再燃予防のために寛解期でも長期に服用する必要があります。
副腎皮質ステロイド
ステロイドは炎症を抑える力が強く、即効性があるため5-ASA製剤で症状の改善を認めない中等症以上の患者さんに対して用いられます。
代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。通常は経口で投与しますが、症状が重い患者さんでは入院して経静脈的に点滴投与します。
この薬剤は強力な抗炎症効果があり中等症から重症の患者さんに用いられますが、長期間にわたり服用すると様々な副作用が発現しやすいので、症状の改善にともない減量中止にすることが重要です。
寛解維持効果はありませんので再燃の予防のための維持療法には用いません。経口剤、注射剤、坐剤、注腸剤、注腸フォーム剤があり、症状や病変部位によって使い分けます。
生物学的製剤 (バイオ製剤)
生物学的製剤は生物が作るタンパク質を利用して作られた薬剤であり、炎症の原因となっている特定の物質に結合してその作用を抑制します。
潰瘍性大腸炎で使用できる生物学的製剤には炎症を引き起こすタンパク質(サイトカイン)の働きを抑える抗TNF-α抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)、抗IL-12/23抗体製剤(ステラ―ラ)と炎症を引き起こす白血球(リンパ球)の大腸組織内への進入を抑える抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)の5剤があります。
炎症の程度が強く、ステロイドなどの従来の治療を行っても効果が十分に得られない中等症以上の患者さんに寛解導入と寛解維持の両方で使用されます。
抗TNF-α抗体製剤
TNFαというサイトカインの働きを抑えることで炎症を抑制します。インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュミラ)、ゴリムマブ(シンポニー)という注射剤が使用されます。効果が認められた場合は、インフリキシマブは8週ごとの点滴注射、アダリムマブは2週ごとの皮下注射、ゴリムマブは4週ごとの皮下注射が維持治療として行われます。
インフリキシマブは病院で注射しますが、アダリムマブとゴリムマブは持ち帰って自宅で注射することができます。また、効果が不十分または効果減弱を認めた場合、アダリムマブでは増量または毎週の短縮投与ができます。
抗IL-12/23抗体製剤
IL-12とIL-23というサイトカインの働きを抑えることで炎症を抑制します。
ウステキヌマブ(ステラ―ラ)という注射剤を初回は点滴で投与し、8週後に皮下注射します。以後、12週ごとに皮下注射しますが、効果減弱を認めた場合は8週ごとに短縮して投与することができます。
抗α4β7インテグリン抗体製剤
炎症を引き起こす白血球(リンパ球)の表面にあるα4β7インテグリンという接着分子に作用することで、白血球(リンパ球)が大腸の組織内へ侵入するのを抑え、腸管の炎症を選択的に抑制します。
ベドリズマブ(エンタイビオ)という注射剤を使用しますが、効果が認められた場合は8週ごとに病院で点滴注射します。
JAK阻害剤
JAK阻害剤はサイトカイン産生に関与している白血球内のヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の働きを阻害し、サイトカインの産生を抑えることで効果を発揮します。
潰瘍性大腸炎で使用できるJAK阻害剤には現在、トファシチニブ(ゼルヤンツ)とフィルゴチニブ(ジセレカ)があります。
ステロイドや生物学的製剤などの治療を行っても効果が十分に得られない中等症以上の患者さんで用いられる経口剤です。寛解導入と再燃予防のための寛解維持の両方で使用できます。
免疫調節薬または抑制薬
免疫調節薬
免疫調節薬はもともと臓器移植時の拒絶反応の抑制や白血病などの治療薬として開発されましたが、潰瘍性大腸炎にも有効なことがわかり今日では広く潰瘍性大腸炎に使用されています。
免疫調節薬はステロイドの減量・中止により再燃を繰り返す患者さんのステロイドの減量中止と寛解維持のために用いられる薬剤です。
アザチオプリン(イムラン、アザニン)という錠剤や6-メルカプトプリン(ロイケリン;未承認) という散剤が使用されますが、効果が現れるのに2~3ヵ月かかります。重篤な副作用として白血球減少がありますが、最近では遺伝子のタイプを血液検査で調べることで副作用が起きるかどうかが事前にわかるようになりました。
免疫抑制薬
タクロリムス(プログラフ)やシクロスポリン(サンディミュン;未承認)などの免疫抑制薬はステロイドが無効な重症の入院患者さんの寛解導入目的で用いられます。
タクロリムスは経口剤、シクロスポリンは注射剤です。両剤とも血液検査で血中濃度をモニタリングして投与量を調節します。タクロリムスの投与期間は通常3か月間でその後はアザチオプリンによる維持療法に移行するのが一般的です。
血球成分除去療法
薬物療法ではありませんが、体外循環装置を用いて血液を一旦、体外に取り出し、炎症の原因となっている活性化した顆粒球などをカラムを通して選択的に除去する治療法でGMA(顆粒球吸着除去療法)と呼ばれます。薬物療法による治療効果が得られにくい場合や、副作用により薬を使用できない場合に行われます。
活動期の症状を改善する目的で行いますが、潰瘍性大腸炎では2022年1月より2週間に1回の維持療法も可能になりました。当院でも外来で導入できる体制をとっています。
日常生活における注意点
潰瘍性大腸炎の患者さんでも適切な治療を行い寛解状態を維持することができれば通常の日常生活を送ることができます。仕事や学業自体への制限は特にありません。
適度な運動と十分な睡眠をとり、ストレスをためない生活を送ることが大切です。
食事
血便などの症状がある活動期では重症度に応じて食事制限が必要ですが、症状が安定した寛解期の患者さんの場合は、バランスのとれた規則正しい食生活を心がければ厳しい食事制限は必要ありません。
ただし、香辛料などの刺激物、炭酸飲料、コーヒー、アルコールなどの過剰な摂取は日頃から注意してください。
タバコ、アルコール
喫煙自体が潰瘍性大腸炎の発症に影響を与えるという報告はありません。むしろ、喫煙がストレス解消になり、潰瘍性大腸炎の発症が抑えられるという報告もありますが、健康に悪影響を与えることを考慮すると喫煙は控えたほうがよいでしょう。
アルコールの影響はよくわかっていませんが、寛解期の適量な飲酒は問題ないとされています。
運動
ストレスは潰瘍性大腸炎を悪化させる要因の一つですので、運動などでストレスを解消することも大事です。運動制限はありませんが、過度な運動は避けてください。
妊娠、出産
潰瘍性大腸炎の患者さんでも通常の妊娠、出産が可能ですが、妊娠する場合は寛解期のほうが望ましいとされています。
妊娠中も再燃させないように最低で5-ASA製剤の服薬は継続する必要があります。妊娠がわかった時に自己判断で薬の服用を中止してしまうと、再燃してさらに強力な薬剤を使わなければならないことになる可能性もあります。
妊娠を考えはじめた時点で主治医に相談し、事前に十分な知識を持っておくことが大事です。男性でも同様で内服薬によりパートナーの女性の妊娠、出産のリスクが上がることはありません。
クローン病
クローン病(Crohn’s Disease:CD)は口から肛門までの消化管全体に炎症がおこる病気です。炎症により縦長の潰瘍(縦走潰瘍)、口内炎のような円形の浅い潰瘍(アフタ)がスキップして認められるのが特徴です。
クローン病について、症状を治療法、日常生活における注意点などをそれぞれ解説します。
症状
主な症状は発熱、下痢、腹痛、体重減などですが、腸管外合併症として、アフタ性口内炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、強直性脊椎炎、関節炎、胆石・腎結石などを認めます。
クローン病は浅い粘膜から炎症が起こりますが、腸管壁の深い部分まで炎症がおよぶと様々な腸管合併症を引き起こします。腸管合併症としては狭窄(腸が狭くなること)、瘻孔(ろうこう:腸と腸、腸と他の臓器・皮膚がトンネルを形成してつながること)、膿瘍(膿が溜まること)、肛門病変(痔瘻、肛門周囲膿瘍)などがあります。
クローン病でも下痢や腹痛などの症状が強い活動期と症状が安定している寛解期を繰り返すことが多く、病状が安定しても再び悪化(再燃)することがありますので、再燃予防のために長期に薬を服用する必要があります。
検査
クローン病の診断を単独で行える検査はありません。問診、診察に加え、血液検査、便検査、内視鏡やレントゲン、CTなどの画像検査を行って診断します。
採血検査
炎症の指標としてCRP、貧血の指標としてヘモグロビン(Hb)、栄養状態の指標として血清総タンパク、アルブミンなどを測定し重症度を評価します。また、投与中の薬剤の副作用を調べるためにも必要です。
便検査
主にほかの病気(感染性腸炎など)によって下痢が起こっていないかを確認するために便の培養検査をします。
画像検査
潰瘍性大腸炎と異なりクローン病は口から肛門までの消化管全体に病変が起きますので大腸内視鏡検査だけでなく、上部(食道・胃・十二指腸)内視鏡検査、小腸内視鏡検査、レントゲン(小腸造影、注腸造影)検査、CT・MRI検査などを行って総合的に判断します。
大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡を入れて大腸の病変の有無、範囲などを調べる検査です。
上部内視鏡検査
口から内視鏡を入れて食道・胃・十二指腸の病変の有無を調べる検査です。
小腸内視鏡検査
小腸カメラが入ったカプセルを飲むだけで検査が可能なカプセル内視鏡や口または肛門から内視鏡を入れてバルーンを使うことで通常の内視鏡では観察できない小腸の深部まで挿入して小腸全域を観察するバルーン内視鏡があります。
小腸造影、注腸造影検査
小腸や大腸に造影剤(バリウム)と空気を注入してX線撮影を行う検査で狭窄や瘻孔の評価に有用です。
CT・MRI検査
腸の炎症に伴う膿瘍や穿孔、肛門病変を評価する場合に行われます。
治療
クローン病(Crohn’s Disease:CD)も潰瘍性大腸炎同様に、完治できる内科治療法がまだないのが現状です。したがって、内科治療の目標は寛解期を長く維持してQOLの向上を目指すことになります。
クローン病の治療も寛解導入療法と寛解維持療法の2つに分かれますが、潰瘍性大腸炎と異なり薬物療法以外に栄養療法も行われます。
寛解導入治療のみで使用する薬剤にはステロイドがあります。寛解維持治療のみで使用する薬剤には免役調節薬があります。寛解導入、維持のどちらにでも使用できる二刀流の薬剤には5-ASA製剤、生物学的製剤があります。栄養療法は寛解導入、維持のどちらにも用いられます。狭窄、瘻孔、膿瘍などの腸管合併症や大量出血は内科治療の限界であり手術の適応となります。
クローン病では病変部を手術により取り除いても再度炎症が起き新たな病変が生じる(再燃)ことが多いので、できるだけ腸管を温存する手術が行われます。したがって、手術は狭窄や瘻孔、膿瘍などの部分だけを局所に切除する小範囲切除が原則です。クローン病の手術は潰瘍性大腸炎と異なりQOLの改善を目指す姑息的な手術に過ぎず、根治治療ではありませんので、術後も再燃予防のために内科治療が継続されます。
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
クローン病で用いられる5-ASA製剤はサラゾピリンとペンタサの経口剤のみです。小腸型や小腸・大腸型クローン病では小腸でも作用するペンタサを用いなければなりませんが、大腸型の場合は大腸で作用するサラゾピリンの方が有効です。経口剤は再燃予防のために寛解期でも長期に服用する必要があります。
副腎皮質ステロイド
ステロイドは炎症を抑える力が強く、即効性があるため5-ASA製剤で症状の改善を認めない中等症以上の患者さんに対して用いられます。代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。
通常は経口で投与しますが、症状が重い患者さんでは入院して経静脈的に点滴投与します。この薬剤は強力な抗炎症効果があり中等症から重症の患者さんに用いられますが、長期間にわたり服用すると様々な副作用が発現しやすいので、症状の改善にともない減量中止にすることが重要です。寛解維持効果はありませんので再燃の予防のための維持療法には用いません。
経口剤、注射剤があり、重症度によって使い分けます。一方、ブデソニド(ゼンタコート)はクローン病で使用可能なカプセル型の経口ステロイド剤です。局所で効果を発揮しますので、プレドニゾロンと異なり全身への副作用が少なく安全性が高いステロイド剤です。下部回腸から右側結腸の患部に有効成分が直接作用して抗炎症作用を発揮します。回盲部(回腸の終末部ら盲腸)に病変がある軽症から中等症の患者さんに有効です。
生物学的製剤 (バイオ製剤)
クローン病で使用できる生物学的製剤には炎症を引き起こすサイトカインの働きを抑える抗TNF-α抗体製剤(レミケード、ヒュミラ)、抗IL-12/23抗体製剤(ステラ―ラ)と炎症を引き起こす白血球(リンパ球)の大腸組織内への進入を抑える抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)の4剤があります。炎症の程度が強く、ステロイドなどの従来の治療を行っても効果が十分に得られない中等症以上の患者さんに寛解導入と寛解維持の両方で使用されます。
潰瘍性大腸炎では5-ASA製剤→ステロイド→生物学的製剤と徐々に治療を強化していくStep-up療法が原則ですが、クローン病ではステロイドをスキップして早期より生物学的製剤を投与するTop-down療法が推奨されています。
抗TNF-a拮抗薬
TNF-aと呼ばれる物質が体内で過剰に作られて炎症が起きることがわかっており、TNF-aを抑制する薬です。
インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)といった注射薬が用いられます。
抗IL-12/23抗体製剤
IL-12とIL-23というサイトカインの働きを抑えることで炎症を抑制します。ウステキヌマブ(ステラ―ラ)という注射剤を初回は点滴で投与し、8週後に皮下注射します。以後、12週ごとに皮下注射しますが、効果減弱を認めた場合は8週ごとに短縮して投与することができます。
抗α4β7インテグリン抗体製剤
炎症を引き起こす白血球(リンパ球)の表面にあるα4β7インテグリンという接着分子に作用することで、白血球(リンパ球)が大腸の組織内へ侵入するのを抑え、腸管の炎症を選択的に抑制します。 ベドリズマブ(エンタイビオ)という注射剤を使用しますが、効果が認められた場合は8週ごとに病院で点滴注射します。
免疫調節薬
免疫調節薬はもともと臓器移植時の拒絶反応の抑制や白血病などの治療薬として開発されましたが、クローン病にも有効なことがわかり今日では広くクローン病に使用されています。ステロイドの減量・中止により再燃を繰り返す患者のステロイドの減量中止と寛解維持のために用いられる薬剤です。アザチオプリン(イムラン、アザニン)という錠剤や6-メルカプトプリン(ロイケリン;未承認) という散剤が使用されますが、効果が現れるのに2~3ヵ月かかります。重篤な副作用として白血球減少がありますが、最近では遺伝子のタイプを血液検査で調べることで副作用が起きるかどうかが事前にわかるようになりました。
抗菌薬
痔瘻、肛門周囲膿瘍などの膿が溜まる肛門病変にメトロニダゾール(フラジール)、シプロフロキサシン(シプロキサン)などの抗菌剤が用いられます。
血球成分除去療法
薬物療法ではありませんが、体外循環装置を用いて血液を一旦、体外に取り出し、炎症の原因となっている活性化した顆粒球などをカラムを通して選択的に除去する治療法でGMA(顆粒球吸着除去療法)と呼ばれます。薬物療法による治療効果が得られにくい場合や、副作用により薬を使用できない場合に行われますが、大腸に病変がある大腸型の患者さんに有効です。
栄養療法
クローン病で特に小腸に広範囲に病変がある場合は通常の食事は吸収できず栄養不良に陥り、全身状態が悪化していくおそれがあります。通常の食事の代わりに、腸に負担のかからない特殊な栄養剤を摂取して低下している栄養状態の改善と腸管の炎症を抑える治療法が栄養療法で寛解導入効果と寛解維持効果があります。栄養療法には栄養剤を用いた経腸栄養療法と中心静脈から高カロリーの栄養分を投与する完全静脈栄養療法があります。
経腸栄養療法
タンパク質がアミノ酸にまで分解されていて脂肪をほとんど含まない成分栄養剤(エレンタール)を経口、経鼻で投与します。他にタンパク質や脂肪などの栄養素がバランスよく配合されて飲みやすくなっている半消化態栄養剤のラコールなどが用いられることがあります。
内視鏡的バルーン拡張術
狭窄の程度、長さが著しくなく、狭窄を起こした腸管まで内視鏡が到達できる場合に出血や穿孔といった合併症に注意しながら内視鏡的にバルーン(風船)で狭窄を拡張する治療です。
血球成分除去療法
薬物療法ではありませんが、体外循環装置を用いて血液を一旦、体外に取り出し、炎症の原因となっている活性化した顆粒球などをカラムを通して選択的に除去する治療法でGMA(顆粒球吸着除去療法)と呼ばれます。薬物療法による治療効果が得られにくい場合や、副作用により薬を使用できない場合に行われますが、大腸に病変がある大腸型の患者さんに有効です。
日常生活における注意点
クローン病の患者さんでも適切な治療を行い寛解状態を維持することができれば通常の日常生活を送ることができます。仕事や学業自体への制限は特にありません。
適度な運動と十分な睡眠をとり、ストレスをためない生活を送ることが大切です。
食事
クローン病の患者さんでは活動期では低脂肪で食物繊維が少ない低残渣の食事が基本となり、重症度に応じて栄養剤を併用します。寛解期でも特に小腸型の患者さんでは再燃予防のために日頃から脂肪を抑えた食事を摂ることが望ましいとされています。香辛料などの刺激物、炭酸飲料、コーヒー、アルコールなどの過剰な摂取は日頃から注意してください。
タバコ、アルコール
喫煙はクローン病の危険因子であり、禁煙により再発率が下がることが報告されていますのでクローン病と診断されたら禁煙を心がけましょう。
アルコールの影響はよくわかっていませんが、寛解期の適量な飲酒は問題ないとされています。
運動
ストレスはクローン病を悪化させる要因の一つですので、運動などでストレスを解消することも大事です。運動制限はありませんが、過度な運動は避けてください。
妊娠、出産
クローン病の患者さんでも通常の妊娠、出産が可能ですが、妊娠する場合は寛解期のほうが望ましいとされています。妊娠中も再燃させないように最低でも5-ASA製剤の服薬は継続する必要があります。妊娠がわかった時に自己判断で薬の服用を中止してしまうと、再燃してさらに強力な薬剤を使わなければならないことになる可能性もあります。妊娠を考えはじめた時点で主治医に相談し、事前に十分な知識を持っておくことが大事です。 男性でも同様で内服薬によりパートナーの女性の妊娠、出産のリスクが上がることはありません。
監修
医療法人社団晃輝会
理事長 医学博士 大堀 晃裕
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医 https://www.coloproctology.gr.jp/
大学病院と総合病院に長年従事し、肛門病疾患を中心に大腸肛門病に対して多数の検査実績、手術への豊富な執刀経験を持ちます。
日本大腸肛門病学会の中でも数少ない専門医・指導医として、治療だけでなく技術指導を行なっています。
現在医療法人社団晃輝会の理事長として大腸肛門病・消化器内科の専門クリニックを2院展開し、胃・大腸内視鏡検査を年間2,700件以上、手術も年間500件あまり手掛けています。
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