痔瘻(痔ろう:あな痔)とは?症状・原因・手術法等を解説
目次
肛門周辺に起こる痔には、「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔ろう(あな痔)」の3つです。 それぞれ症状が異なり、原因や治療法も違います。 この記事では、痔ろう(あな痔)の症状・原因・手術法などを詳しく解説いたします。 症状が強く出た場合の応急処置にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
痔瘻(痔ろう)の症状
痔ろうは、直腸と肛門周囲の皮膚との間に、膿を排出するトンネルができる状態です。 肛門の周囲に膿がたまる肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)の症状が進み、繰り返すことにより、痔ろうになります。
痔ろうだけでは痛みはでません。しこりが触れたり、分泌物(ぶんぴつぶつ)が出たり、かゆみを感じたりします。
次のように痛みや熱が出るのは、肛門周囲膿瘍の症状です。
- 排便の有無にかかわらず、肛門周囲が腫れて痛みがある
- 熱が出る
- 市販薬(坐薬・飲み薬など)を使用しても、症状が治らない
痔瘻の原因
痔ろうになる原因には、以下のものがあります。
- 肛門周囲膿瘍
- 切れ痔
- クローン病
- 結核
- HIV感染
- 膿皮症(のうひしょう) など
このうち痔ろうになる頻度が最も高いのは、肛門周囲膿瘍です。
肛門周囲膿瘍は、肛門腺(※)に便に含まれる大腸菌などの細菌が入り込み、感染して化膿することで発症します。 小さなくぼみの中にあるので、普通便から入ることはめったにありませんが、下痢が続くと入りやすくなります。 肛門腺の付近に傷があったり、体の抵抗力が弱っていたりすると、細菌に感染しやすいです。 (※)肛門腺:肛門と直腸の境目にある、肛門陰窩(こうもんいんか)と呼ばれる小さなくぼみの中にある腺
痔瘻の応急処置
痔ろうで応急処置が必要な場合は、肛門周囲膿瘍からの炎症が原因であることが多いです。 そのため症状を和らげるには、うつ伏せや横を向いて寝るなど楽な姿勢をとり、氷のうなどで患部を冷やしてください。 患部が化膿しているので、温めるのは逆効果になります。
肛門の周りが膿で汚れている場合には、入浴もしくは座浴にて清潔にするのも大切です。 洗うときはぬるま湯でやさしく洗うようにし、石けんや消毒綿などは使用しないでください。
痔瘻は手術治療が必要な場合がある
痔ろうは生活習慣や食生活を見直したり、治療薬を使用したりする治療では、あまり効果がありません。 症状が進行して、複雑なタイプになる前に、切開して溜まった膿を出す治療が必要です。 しっかりと膿を出し切り、再感染しないように抗菌薬を使用します。
一度できた痔ろうは、膿がでて傷口が塞がっても、トンネル自体はなくなりません。 自然治癒することはあまりなく、再発の可能性もあるため、手術治療にて根治(こんち:完全に治す)をめざします。
痔瘻の種類と手術法
痔ろうの手術は、できた場所により手術法が変わります。 肛門周囲の皮下には、内肛門括約筋・外肛門括約筋・肛門挙筋の3種類の筋肉が存在しており、トンネルが到達している位置により、分類が決まっています(隈越分類)。
Ⅰ 皮下または粘膜下痔瘻 | L:皮下痔瘻 H:粘膜下痔瘻 |
Ⅱ 内外括約筋間痔瘻 | L:低位筋間痔瘻 H:高位筋間痔瘻 |
Ⅲ 肛門挙筋下痔瘻 | U:片側のもの B:両側のもの |
Ⅳ 肛門挙筋上痔瘻 |
- Ⅰ.粘膜または皮膚と内括約筋との間の腔
- Ⅱ.内・外括約筋の間の腔
- Ⅲ.肛門挙筋下腔
- Ⅳ.肛門挙筋上腔
- H.歯状線より上方
- L.歯状線より下方
種類①低位筋間痔瘻
低位筋間痔瘻(ていいきんかんじろう)は内括約筋と外括約筋の間に位置し、奥に伸びている痔ろうです。 約60%はこのタイプの痔ろうになります。
低位筋間痔瘻の手術法
- トンネルが後方にある場合は「切開開放術」
切開開放術:トンネルの手前側を開放し、トンネルの底部を残す術式
- トンネルが前方や側方にある場合は「括約筋温存手術」もしくは「シートン法」
括約筋温存手術:肛門括約筋を温存させる術式 シートン法:トンネルにシートンを通し少しずつ縛り、時間をかけて開放していく術式。シートンの材質はナイロン糸やゴム糸など
種類②高位筋間痔瘻
高位筋間痔瘻(こういきんかんじろう)は内括約筋と外括約筋の間に位置し、上に伸びている痔ろうです。 約10%弱はこのタイプの痔ろうになります。
高位筋間痔瘻の手術法
- 括約筋温存手術
種類③坐骨直腸窩痔瘻
坐骨直腸窩痔瘻(ざこつちょくちょうじろう)は外括約筋を越えて肛門挙筋の下まで伸びる痔ろうです。 肛門の後方を複雑に伸びていきます。 約30%はこのタイプの痔ろうになります。
坐骨直腸窩痔瘻の手術法
- 肛門保護手術
まとめ
痔ろうとは、直腸と肛門周囲の皮膚との間に、膿を排出するトンネルができる症状です。 肛門周囲膿瘍を繰り返し、症状が進行することによって起こる疾患になります。
痔ろうそのものに痛みはなく、しこりが触れたり、分泌物が出たり、かゆみを感じたりするのが主な症状です。 痛みが出たり、熱が出たりするのは、肛門周囲膿瘍からの炎症が原因になります。 そのため、痛みなどが出たときの応急処置は、楽な姿勢をとったあとに患部を冷やしてください。
飲み薬や塗り薬で治ることはなく、切開して溜まった膿を出す治療が必要になります。 一度できた痔ろうは、自然になくなることはありません。 手術治療により、根治をめざします。
痔ろうは放っておくと進行していく疾患のため、早期発見・早期治療が重要になります。 肛門周囲に違和感がありましたら、早めに病院を受診してください。
監修
医療法人社団晃輝会
理事長 医学博士 大堀 晃裕
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医 https://www.coloproctology.gr.jp/
大学病院と総合病院に長年従事し、肛門病疾患を中心に大腸肛門病に対して多数の検査実績、手術への豊富な執刀経験を持ちます。
日本大腸肛門病学会の中でも数少ない専門医・指導医として、治療だけでなく技術指導を行なっています。
現在医療法人社団晃輝会の理事長として大腸肛門病・消化器内科の専門クリニックを2院展開し、胃・大腸内視鏡検査を年間2,700件以上、手術も年間500件あまり手掛けています。
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